子宮頸がんは子宮の入口(頸部)にできるがんで、日本では毎年1万人弱の女性が子宮頸がんにかかり、3千人弱が亡くなっており、近年は若い世代で多くなっておりピークは30代です。20代、30代の女性で子宮頸がんのために妊娠できなくなる女性が毎年1200人います。
この妊娠・出産・子育ての時期に罹患してしまう子宮頸がんの95%以上はヒトパピローマウイルス(HPV)の感染が原因と言われており、特に2つのタイプ(HPV16型と18型)によるものが子宮頸がん全体の50~70%を占めています。そのHPV感染を予防するのが子宮頸がんワクチンです。子宮頸がんワクチンでのHPV感染予防と、20歳以降の定期的な子宮がん検診受診とで子宮頸がんはかなり予防できます。
子宮頸がんワクチンは2013年に定期接種となりましたが、その後副作用の可能性がマスコミで大々的に報道され『積極的勧奨の中止』となっています。当時、子宮頸がんワクチンの副作用で歩けなくなった・計算ができない・痙攣するなどの症状を訴える車いすの少女たちのセンセーショナルな映像が連日マスコミで報道されました。しかしその後、厚生労働省の調査の結果、マスコミで報道されたような多様な症状の原因が子宮頸がんワクチンであるという科学的証拠がなく、子宮頸がんワクチンとの関連は否定されています。子宮頸がんワクチンを打ってない人たちにも、同程度に急に歩けなくなった等の様々な症状を訴える症例があることが名古屋市の調査でも報告されています。
世界を見渡せば2007 年に世界で最初に子宮頸がんワクチン公費助成プログラムを導入したオーストラリアをはじめ、先進国を中心に、接種費用を公費で助成する国は115か国以上にのぼっており、WHO(世界保健機構)をはじめとする世界の主要な国際機関や政府機関は、子宮頸がんワクチン接種を推奨しています。実際に子宮頸がんワクチンを導入した国(オーストラリアやアメリカ、イギリス等)では、すでに子宮頸部の前がん病変の減少が認められており、特にオーストラリアは2028年には新規子宮頸がん患者さんはほぼいなくなると言われています。
ただ我が国では当初子宮頸がんワクチンの接種率は、定期接種開始当初は70%以上でしたが、『積極的勧奨の中止』によりその存在すら認識されなくなり、現在は接種率1%未満となっています。そして子宮頸がんワクチンを受けなかった世代が子宮頸がんを発症する年代となり、婦人科の先生方は危機感を感じています。最近は、岡山県や横浜市、津市の様に自治体独自に定期接種であることを周知するなどの動きも出てきており、厚労省も2020年10月には周知については勧める通知を出しています。
『積極的勧奨の中止』はまだ現存していますが、子宮頸がんワクチンは2013年4月1日以降ずっと定期接種ではあり、現在も定期接種として受けることができます。子宮頸がんワクチンは性交渉を経験する前の10歳代前半に接種をすることが推奨されており、定期接種は小学6年生~高校1年生の間に3回接種するスケジュールで、標準的には中学生~高校1年生での接種です。初回接種後6か月後に3回目の接種になるので、遅くとも高校1年生の9月までに開始しないと定期接種での接種から外れてしまいます。定期接種を外れてしまうと任意接種(有料)となり、1回16000円x3回=48000円の費用がかかります。また副反応が起きた際の対応も定期接種法ではなく医薬品医療機器総合機構法対応となってしまいます。
『積極的勧奨の中止』のため世田谷区から問診票は送付されてこないと思いますが、対象の女児には定期接種で受ける権利があることをお伝えしたいと思います。
全く副作用がないワクチンは存在しません。皆様がこれまで受けてこられた予防接種にも副作用はありました。子宮頸がんワクチンがこれまでのワクチンと異なる点は、以下2点だと思います。
①筋肉内注射であること
子宮頸がんワクチンは皮下注射ではなく筋肉内注射である点です。新型コロナワクチンと同じです。痛みはこれまでのものより大きいかもしれませんし、肩に接種するので袖を肩が見えるまでまくってもらわないといけません。ただ筋肉内注射は欧米では他ワクチンもほぼ全て筋肉内注射であり正しく行えば全く心配のない接種方法です。
②思春期の女児が対象
思春期は、だれしも人間関係や学業など色々な意味で悩みがある年代です。接種時の痛みをきっかけに普段の悩みが身体的な症状として現れる可能性はゼロではありません。万が一ワクチンの後に、ワクチンとは一般的に結びつかない何らかの症状を訴えた場合も、ワクチンはきっかけであり、原因ではないと考えられます。但しワクチンの副作用と本人やご家族が考えられる場合は、ワクチンの関連があってもなくても救済措置はありますのでご安心ください。
以上2点が今まで受けてきたワクチンと差異があり気になる点もあるかもしれませんが、現時点でがんが予防できるワクチンは子宮頸がんワクチンとB型肝炎ワクチンの2つだけです。予防接種にはメリット、デメリットの二面性があるには確かですが、てんびんにかけて頂きメリットが多いと思われればワクチンを受けましょう。
妊娠した喜びの中、妊婦健診の際に子宮頸がんが見つかり、赤ちゃんごと子宮摘出する痛ましい症例も産婦人科の先生は体験されています。中学生や高校生のあなたならあなた自身や未来のあなたの赤ちゃんのために、保護者の方ならあなたの大切なお嬢さんと未来のお孫さんを守るために、子宮頸がんワクチンの接種を是非ご検討下さい。
なお子宮頸がんワクチンは現在定期接種出来るものには2価のサーバリックスと4価のガーダシルとの2種類ありますが、サーバリックスは出荷調整で入手困難であり、現在はガーダシルのみ定期接種可能です。定期接種外になりますが、9価ワクチンのシルガード9も任意接種であれば接種可能であり、カバーできる範囲は拡がります。
※副反応についての詳しい説明とWHOや学会の見解
有害事象は国主導の調査において890万回接種で副反応疑いが0.03%の2584人で、うち186人に通院を要する未回復な状態があり、10万回接種で2人になります。また名古屋スタディー以外にフランス等で実施された再調査でもテレビ等で報道されていた複合性局所疼痛症候群(CRPS)や体位性起立頻拍症候群(POTS)、自己免疫疾患の発生率は本ワクチン接種者と一般集団で差がみられないことが示されています。
WHOは子宮頸癌ワクチンの『積極的接種勧奨の中止』により若い女性たちが本来予防可能なHPV関連癌の危険にさらされたままになっており、不十分なエビデンスにもとづく政策決定は安全かつ効果的なワクチン使用の欠如につながり真の被害をもたらす可能性があると意見しています。
日本小児科学会、日本産婦人科学会、日本ワクチン学会はじめとした複数の学会において、2013年6月より、『積極的接種勧奨の中止』がなされているが、HPVワクチンの有害事象の実態把握と解析、接種後に生じた症状に対する報告体制と診療・相談体制の確立、健康被害を受けた被接種者に対する救済などの対策が講じられたことを受けて、積極的接種を推奨するとしています。